1 法規による義務としての提出の場合
この場合大きく、医療業務関係法規による場合と、その他公法上の規定による提 出の場合、に分けることが出来る。
(一) 医療業務関係法規とは、たとえば、医療違法や麻薬取締法などの規定である。
具体的には、清潔保持の状況やカルテ・帳簿などの書類などを検査する医
療監視員に対する提示(医療法25条)、保健医療監査による提示(健康保険 法9条2項1号、43条10項1号)、福祉関係法規による提示(身障者福祉・母
子保健などの諸法)、薬事法・麻薬取締法(53条)による提示の要請の場合で ある。 (二) その他公法上の規定による提出とは、強制捜査、たとえば逮捕(刑訴220
条)や裁判所の手続きによる提出、たとえば証拠保全(民訴343、344条)や 提出義務(民訴311条)による場合です。
| 2 公益優先・医療の公共性による提示の場合
カルテの原本が病院側にあると、病院が捜索を受けている場合、当然書類の一 種であるカルテも押収されることになる。そうではないにしても、かかりつけ以外の
医者にかかろうとする場合、カルテ作成のために改めて検査をやり直すことになり、 迅速な医療行為を受けにくくなる。 また現状だと、カルテが担当医以外の目に止まる機会が少ない。そのため、医学
に通じた第三者の客観的な意見を聞くことで、患者自身がより適切だと思われる医療行為を模索することができない。 さらに現状は、不審な点をチェックする人がほと
んどいない、といえる。 捜索で押収されるにしろ、医療の公共性のためにしろ、カルテのコピーでも十分であろう。 3 患者利益擁護のための提示または拒否
この場合いうまでもなく、本人がカルテを所持するようになれば、適正な手続きによる令状によらない限りは、たとえ病院が捜索されたとしても、捜査機関などにカルテの原本を押収されることはない(憲法35条)。また、たとえばカルテの内容について供述を求められても、黙秘権(憲法38条1項)が保障されているので、自分にとって不利益なおそれがあれば、別に答える義務はない。
現状では、カルテを記載しただけの医者が勝手に判断して、個人の権利を害しかねないが、カルテの自己所持が実現すれば、自己責任として扱えばよくなる。 4 医療の本質による拒否
これは、一見もっともらしそうだが、実は曖昧不明確である。何をもって医療の本質というのであろうか。カルテをチェックされる際、これをたてに証拠隠しをしているのでは、と疑われても仕方のないいいわけである。また、実際に疑わしい。
医療という大きなものにかかわるかどうかは、医者が独断で決めるべきことではなく、医療関係者が議論を重ねた上、決めるべきことだと解する。 だとすると、外部から医療関係者を連れてきて、徹底的に調査させ、その調査レポートを元に捜査することは可能であろう。 5 「守秘義務」(刑法134条)による拒否
医者がカルテを所持しているのだから、問題となる事柄である。 この点、カルテの自己所持が実現すれば、本人が必要と判断すれば、捜査機関に協力しても、何の問題もないであろう。
むしろ本人が捜査機関への協力を許可していても、「守秘義務」をたてに医者の判断で捜査機関に協力しないことがあるとすれば、そのほうが問題である。 「守秘」したければ、受付の記録などや、カルテのコピーでも十分なはずである。
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