医療行為とカルテ

 

一 カルテとは、保険法などによる法的な記録、臨床研究等のデータ、患者指導等 の記録、医者の覚え書きを記した書面をいう。 
   また医師法施行規則21条では、診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢、病名および主要症状、治療方法(処方および処置)、診療年月日、をカルテに最低限記載しなければいけない事項、として定めている。 
   診療を受けるのは本人であるのに対し、そのカルテを保管するのは、実際に診療行為を受けた医療機関である。
   そこで、カルテの所持を受診者にさせた場合、 いかなる問題が起きるか、検討していく。

 提示等要否の原則として、@法規による義務としての提出、A公益優先・医療の 公共性による提示、B患者利益擁護のための提示または拒否、C医療の本質による拒否、D「守秘義務」(刑法134条)による拒否、が挙げられる。

1 法規による義務としての提出の場合
 この場合大きく、医療業務関係法規による場合と、その他公法上の規定による提 出の場合、に分けることが出来る。 

 (一) 医療業務関係法規とは、たとえば、医療違法や麻薬取締法などの規定である。
    具体的には、清潔保持の状況やカルテ・帳簿などの書類などを検査する医 療監視員に対する提示(医療法25条)、保健医療監査による提示(健康保険 法9条2項1号、43条10項1号)、福祉関係法規による提示(身障者福祉・母 子保健などの諸法)、薬事法・麻薬取締法(53条)による提示の要請の場合で ある。


 (二) その他公法上の規定による提出とは、強制捜査、たとえば逮捕(刑訴220)や裁判所の手続きによる提出、たとえば証拠保全(民訴343、344条)や 提出義務(民訴311条)による場合です。  

 

 

 

 

 

 

 

2 公益優先・医療の公共性による提示の場合
 カルテの原本が病院側にあると、病院が捜索を受けている場合、当然書類の一 種であるカルテも押収されることになる。そうではないにしても、かかりつけ以外の 医者にかかろうとする場合、カルテ作成のために改めて検査をやり直すことになり、 迅速な医療行為を受けにくくなる。 
  また現状だと、カルテが担当医以外の目に止まる機会が少ない。そのため、医学 に通じた第三者の客観的な意見を聞くことで、患者自身がより適切だと思われる医療行為を模索することができない。
 さらに現状は、不審な点をチェックする人がほと んどいない、といえる。 捜索で押収されるにしろ、医療の公共性のためにしろ、カルテのコピーでも十分であろう。

3 患者利益擁護のための提示または拒否
 この場合いうまでもなく、本人がカルテを所持するようになれば、適正な手続きによる令状によらない限りは、たとえ病院が捜索されたとしても、捜査機関などにカルテの原本を押収されることはない(憲法35条)。また、たとえばカルテの内容について供述を求められても、黙秘権(憲法38条1項)が保障されているので、自分にとって不利益なおそれがあれば、別に答える義務はない。
 現状では、カルテを記載しただけの医者が勝手に判断して、個人の権利を害しかねないが、カルテの自己所持が実現すれば、自己責任として扱えばよくなる。

4 医療の本質による拒否
 これは、一見もっともらしそうだが、実は曖昧不明確である。何をもって医療の本質というのであろうか。カルテをチェックされる際、これをたてに証拠隠しをしているのでは、と疑われても仕方のないいいわけである。また、実際に疑わしい。
 医療という大きなものにかかわるかどうかは、医者が独断で決めるべきことではなく、医療関係者が議論を重ねた上、決めるべきことだと解する。
 だとすると、外部から医療関係者を連れてきて、徹底的に調査させ、その調査レポートを元に捜査することは可能であろう。

5  「守秘義務」(刑法134条)による拒否
 医者がカルテを所持しているのだから、問題となる事柄である。
 この点、カルテの自己所持が実現すれば、本人が必要と判断すれば、捜査機関に協力しても、何の問題もないであろう。
 むしろ本人が捜査機関への協力を許可していても、「守秘義務」をたてに医者の判断で捜査機関に協力しないことがあるとすれば、そのほうが問題である。
 「守秘」したければ、受付の記録などや、カルテのコピーでも十分なはずである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三 現状で、患者にカルテを見せているのかどうか。
 患者へのカルテの提示について、一般的には妥当とされている。ただし、以下の場合は、例外的に見せないことになっている。

 
1 治療上、悪影響を与える場合。
 たとえば、治療法がまだ確立されていない場合、延命措置だけ、もしくはそれすら取れない状態の場合。

2 診療妨害が目的の場合。

3 不正目的や公益侵害のおそれのある場合。
 たとえば、人に脅されてカルテの提示を求めている場合。

 

 

 

 

 しかし、原則は本人の申請を要し、例外的に一定の人のカルテは、家族やその代理人しか交付を受けられないようにすれば、上記1の場合とはいえども、本人を保護できる、と解する。
 なぜならば、たとえば、カルテを見ることが悪影響な人を含む、@入院中の者、A入院を要した内臓の病気や、B大きな外科手術を伴う治療に係属中(退院後数ヶ月なども含む)などの本人は、カルテの交付申請が簡単には出来ないようにすれば回避できるからである。
 だがあまり限定しすぎると、カルテを見せられないような、死が迫った状態なのだと、伝えるようなものである。したがって上記のように、ある程度広く、本人による自己所持請求ができない範囲を設定すべきである。
 また上記2の場合、病院側が合理的で明確な理由を答え、後日請求に応じれば足りる、と解する。

四 以上のように解すると、カルテを本人に所持させたからといって、特に不都合が起きるようには思えない。
 むしろ、カルテに嘘が書かれてはいないか、治療が適切だったか等、市民から不透明だった点が明確になる点で有益である。
 さらに、かかりつけ以外の医者にかかった場合でも、今までにどんな症状が出ていて、どんな治療が施されてきたのかなどを判断材料に、緊急に処置しなければいけない状態でも、その人に合った処置を期待できるのである。
 したがって、本人に口頭で治療状況などを説明することはもちろん、カルテをデータ化する等してでも、カルテ原本は本人が持つべきである、と解する。

以上


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