<民法系って何?>

 

 民法系の法律とは主に、民法、商法、民事訴訟法(以下、民訴)をいいます。

 民法とは、憲法とは違って、より身近な法律のはずです。損害賠償請求(慰謝料請求)に対する規定や、相続に関する規定なども、ここにあります。民法系の法律の原則となっています。内容は総則(繰り返し出てくる名前の共通項として規定したもの)、債権。物権、親族、相続、と分けられます。

 商法とは、民法の特別法で、総則、会社、商行為、海商、と分けられます。ここに載っていない規定は、すべて、民法の規定を使います。
 民訴とは、民事訴訟(損害賠償請求など)に関する手続きの規定です。(民訴1条)
 ここでは、特に民法について書いていきます。

 たとえ、民法に規定がないことでも、あまりにも人道的に反するなどの場合は、民法の大原則によって、認められないことがあります。一条二項を、現代語表記で書いておきます。

権利ノ行使及ビ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス

 民法と刑法では、人の始まりの考えが違います。民法では、体が母体から出た時点をいいます。届出の有無は関係ありません。だから、胎児は人ではないので、権利能力はありません。ただ例外的に、損害賠償請求(721条)、相続(886条)、遺贈(965条)は認められています。この場合の損害賠償請求とは、たとえば、父親が車にひかれた場合などの時の話です。

 では、権利能力の終了はいつでしょう。それは、死亡したときです。遺体の確認ができない場合は、死亡が確実、とされた場合に終了します。

 民法ではよく、「善意」とか「悪意」という言葉が出てきます。たとえば、

 Aは、Bから借りていたカメラを自己のものとして、善意のCに売り払った。その後、Cは。悪意のDにそれを売り渡した。

 という文があったとします。

 善意のCとは、カメラが実はBのものである、ということを知らない人、C、ということです。一方、悪意のDとは、カメラはBのだ、とDが知っている、ということです。
 
良い事をするためとか、悪いことをするため、とかいった、主観的な感情は関係ありません。

 この話をもうちょっと使ってみます。カメラを勝手に売られたBさんは、どうしたらいいのでしょう?すでにカメラは、Aのもとにはありません。

 結果からいうと、カメラ自体は返ってきません。それは、事情を知らないCさんがいるからです。確かにその後、事情を知っているDさんが存在してはいますが、Cさんは何も知らなかったのです。BさんよりもCさんを保護すべき、ということになることが多いです。(116条)

 カメラは返ってきませんが、代金の回収はできます。(113条、117条)
 現代語に訳して、条文を書いてみます。

第116条  追認は別段の意思表示がない場合、契約のときに遡ってその効力を生じる。ただし、第三者の権利を害することはできない

第113条  代理権を有しない者が他人の代理人として為した契約は、本人がその(契約の)追認をしなければ、之に対してその効力は生じない

 追認またはその拒絶は、相手方に対してこれを為さなければ、これを理由にその相手方に対抗することはできない。ただし相手方がその事実を知っているときは、この限りではない

第117条  他人の代理人として契約をした者が、その代理権を証明することができず且つ、本人の追認を得られないときは、相手方の選択に従い、これに対して履行または損害の賠償をする責任がある

 では、Cさんが悪意だった(事情を知っていた)らどうでしょうか?
 この場合は、Cさんのところにいって、直接返してもらいましょう。

 また、相手がお金(貸した金でも、賠償金でも)を素直に返してくれない場合があります。そういう場合は、「支払命令」の措置をとることができます。「支払命令」自体は簡易裁判所が行います。こっちとしては簡易裁判所に行って、支払命令の用紙に書き込んで、提出すればいいのです。
 ここで注意が必要なのは、自分の管轄簡易裁判所と相手の管轄簡易裁判所と違う場合は、支払いを行うべき相手の住んでいるところの管轄簡易裁判所に支払命令の執行請求をしなければなりません。
 支払命令に関しては、特に審査などはありません。支払命令を送達されたとき、相手が不服申し立てをした場合、通常裁判に切り替わります。そこで、弁解・防禦の機会が保障されるからです。

 ほかに問題になりそうな話としては、売買契約の一例を挙げます。

 たとえば自動車を買った、とします。自動車を買うとき、普通は、車種や色、内装などさまざまに自分なりのものにして買うものです。MDデッキ搭載のものを注文したのに、テープデッキのみ搭載だとか、MDデッキの壊れた自動車が届けられたのでは、たまったものではありません。

 このように、自動車の場合なら特に、買う物の個性に着目して買うのが普通でしょう。このような物のことを、特定物、といいます。

 普通は、買ったばかりのMDデッキが壊れていたら、「修理してくれ」とか「壊れてないのをくれ」というのでしょう。ですが、特定物の場合は、引渡し時の状態のまま渡せ、という規定があります(483条)。だから、「特定物ですから」といわれると、何もいえなくなってしまいます。
 でも、泣き寝入りするわけにはいきませんよね。この場合は、瑕疵(かし)担保責任(570条、566条)を使います。問題の事実を知ってから、一年以内なら、損害賠償(ここでは、修理や交換など)を売主に請求できます。最悪の場合は、契約の解除もできます。

 賃貸借契約も、ついでにアパートを例にして挙げておきましょう。

 家賃滞納については、3ヶ月ぐらいの遅滞では、大家との信頼関係の崩壊がない限り、追い出されそうになっても、出て行くことはありません。仮に裁判になっても、絶対に勝ちます。実際に判決で、そうなっています。
 アパートなどにもともとあったもの(ドアやトイレとか)が壊れてしまった場合、その修理は自分で処理しなければいけないのでしょうか?家賃を払って住んでいる場合であれば、大家か管理会社に電話して、「直してくれ」といえばいいのです。自然に壊れたものならば、修理代金は、大家側の負担になります。

 では、エアコンを自分で買って、大家に無断で取り付けたとします。どうなるでしょう?

 エアコンのように、通常取り外しが難しく、家との一体性がある場合は、不可一体物として、処理されます。つまり、どういうことかというと、家とエアコンに、親分と子分の関係をつけるとすると、家が親分、エアコンは子分となるでしょう。そうなると、附合(243条)の問題になって、子分は親分の所有者、つまりは大家、のものとなってしまいます。

 大家に無断ですると、借地借家法(賃貸借の特別法)33条が適用されないので、大家にエアコンを買い取ってもらえません。だから、取り外しできなかったり、かなりの費用がかかる場合は、きちんと大家の承諾を得ておきましょう。

 借地借家法33条  建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申し入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
  前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申し入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。

 

賃貸借契約についてもうちょっと詳しく

 


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