<憲法って何?>

 

 法律の重要性の判断は、それぞれの法律の立法趣旨によって変わってくることは、表紙で述べました。そしてずばり、憲法が日本の法律の中で一番重要なものだ、とも書きました。

 憲法、とは一体どんな法律なのでしょう?
 
一言で書けば、国家の基礎法、ということになります。

 どの法律よりも上位で、憲法にあわせてその他の法律を作るのです。そしてまた、国家権力(行政・立法・司法、警察などなど)も、これにより抑制を受けます。

 だから刑法などで、憲法に書いてあることと違うことがあれば、憲法違反(違憲)の疑いがある、と考えられます。

 たとえば、平成7年の刑法改正まで、「尊属殺人」(刑法200条、現在は削除)というのがありました。これによってそれまでは、親兄弟などの親族を殺した場合、普通殺人(同199条)よりも重く処罰されていました。ある事件をきっかけに、平等原則に反する、と裁判所が判断しました。そこで現在、尊属殺人の条文は削除されています。

 ここで注意しなくてはいけないことがあります。
 確かに最高裁判所に違憲審査権(81条)が与えられています。
 しかし日本では、裁判にならなければ、違憲の疑いがあっても、裁判所に違憲審査を求められません。そういうルールになっています。
 ドイツでは日本と違って、実際事件になっていなくても、裁判所に違憲審査を請求できます。

 日本の憲法が何のための法律か、というと、「国家権力を抑制し、国民の権利・自由を守るための法律」、ということになります。

 憲法には、どんなことが書いてあるでしょうか?日本国憲法の目次を見ると、第3章に、「国民の権利および義務」とあります。
 全11章、全103条のうち、31条分もここに使われています。
 その中には、思想良心の自由(19条)・信教の自由など(20条)・表現の自由など(21条)・職業選択の自由など(22条)、なんかがあります。
 生存権とか、平等原則、公共の福祉などもここに書いてあります。

 「基本的人権はどうした?」と思われる人がいると思います。
 それは、第10章「最高法規」の先頭に書いてあります。
 なぜ、「国民の権利・自由」の中ではなく、「最高法規」の中なのでしょう?
 それは、憲法がほかの法律よりも最高位にあり、特に国民の権利・自由を保護・保障するためのものだ、ということのあらわれだ、と解します。

 憲法が、国民を保護するためのもの、というのはわかりました。
 では、誰が憲法を守らなくてはいけないのでしょう?国民も憲法尊重・擁護(ようご)義務を負うのでしょうか?
 
これに関しては99条は、「天皇または国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」に対してだけ、憲法を尊重し擁護する義務を規定しています。

 つまり、国民は、憲法を否定する権利までも与えられているのです。そうでなければ、憲法を改正することもできませんし。

 以前渋谷を歩いていたら、歩行者専用の小さなトンネルの中に、右翼団体のビラがはってありました。その紙の記述の中に、「この紙を破ったものは、憲法21条によって処罰されます」と、いうような記述がありました。

 しかし、あなたや僕が公務員とかでない限り、憲法違反で問題にされることは絶対ありません。公共物の壁に勝手にそのように貼ってあるビラを破いたとしても、あなたにも、そのようなビラを見たくない権利があるのですから、どちらを保護すべきか、というように考えていきます。人によって見解は違うでしょう。

 だから法律学は、「〜である」ではなく、「〜であるべき」という、べき論なのです。
 このように両者の利益を比べる考えを、利益衡量とか比較衡量、といいます。

 いまの、見たくない権利とは、一体何の権利の基づいているのでしょうか?
 表現行為は、「表現の自由」(21条1項)という権利が憲法に明記されています。が、見たくない権利、というのはありません。どうしたらいいでしょう?
 見たくない権利というのは、「表現の自由」と反対の考えです。つまり、表現の自由が認められているのならば、見たくない権利も当然認められるべきです。

 この場合の見たくない権利のことを、消極的表現の自由といいます。
 日常生活の消極的とは、意味が違います。表現しないことは、法律学では消極的とはいいません。
 普通の表現の自由、つまり、積極的表現の自由に対抗するものを、消極的表現の自由、といいます。
 今は、表現の自由に対してしか書いてませんが、他でも、この意味の積極的・消極的という言葉は出てきます。刑法でも出てきます。

 先ほど出てきた、公共の福祉(12条,13条,22条,29条)とは、どんな意味でしょう?見ても訳が分かりません。
 一言で書けば、人に迷惑をかけないこと、です。
 つまり、「公共の福祉に反しない限り」(13条,22条)という文言(もんごん)は、他人に迷惑をかけない限り、というような意味になります。


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